発熱、悪寒を訴えERを受診した30歳代女性(2/3)
(今号は3週連続で配信しています。 1号目)
※本症例は、実際の症例を参考に作成した架空のものです。
前回までのまとめ
海外渡航後の発熱患者の診療で必要な問診事項を表1に示す。ここから推定される潜伏期は、タンザニア:19~26日、ケニア:5~18日となる。
渡航先、期間、目的 | タンザニア(ダルエスサラーム):(Y-1)月26日~Y月2日 ケニア(キスム):Y月3~11日 ケニア(ナイロビ):Y月11~16日(→18日に帰国、21日に発症) 観光旅行 |
気 候 | 雨期 |
食 事 | 現地のもの:生水(-)、氷(+)、生野菜・生肉・生魚(-)、生フルーツ(+)、非加熱乳製品(-) |
生活スタイル、活動 | ダルエスサラームおよびナイロビではホテル、キスムでは安宿。キスムからバスで30分程度のアヘロでルオ族の家を再現した場所を見学した。川の水に手を触れた。海水曝露なし。森林や洞窟なし。 |
プレトラベルワクチン | 1年前に黄熱病1回、破傷風2回、A型肝炎2回 |
予防内服 | なし |
蚊予防 | 日本製の虫除けスプレー、蚊帳使用、DEET使用なし。 |
動物接触 | 特にキスムで蚊にたくさん刺された(昼も夜も)。ダニや他の虫には刺されていない。他動物接触なし。 |
性交渉 | なし |
ここで本症例のプロブレムリストをまとめると次のようになる。
#1.タンザニアとケニア渡航後の発熱(潜伏期:タンザニア19~26日、ケニア5~18日)
#2.悪寒(戦慄はなし)
#3.発熱時の呼吸困難、頭痛、腰痛
#4.下痢(改善傾向)
#5.現地の食生活(氷、フルーツ含む)
#6.雨季、蚊刺傷、マラリア予防内服(-)
潜伏期ごとに分けて考える際は、表2[1]を参考にすると便利である。
<10日 | 11~21日 | >21日 |
デング熱 チクングニア熱 インフルエンザ 細菌性赤痢 ウイルス性腸炎 リケッチア症 黄熱 回帰熱 腺ペスト 炭疽 ウイルス性出血熱 | マラリア(主に熱帯熱) 腸チフス・パラチフス レプトスピラ症 急性HIV感染症 リケッチア症 Q熱 ブルセラ症 原虫性下痢症 糞線虫症 ライム病 シャーガス病 アフリカトリパノソーマ症 | マラリア(熱帯熱を含む) 結核 ウイルス性肝炎(A・E) 原虫性下痢症 赤痢アメーバ症 HIV 住血吸虫症 フィラリア症 狂犬病 内臓リーシュマニア症 |
さらに、現地でどのような感染症が流行しているかの情報も手に入れる必要がある。流行地については、CDCのYellow Book[2]や厚生労働省検疫所[3]、fitfortravel[4]などのウェブサイトで閲覧することができる。
以上を参考にして、本症例における鑑別診断として以下の疾患を挙げた。
・マラリア(特に熱帯熱)
・デング熱
・腸チフス・パラチフス
・リケッチア症
・感染性腸炎
・インフルエンザ
・アフリカトリパノソーマ症
一般的にサハラ以南のアフリカではマラリア(特に熱帯熱)が多く、都市部でもマラリアが流行している。熱帯熱マラリアは重症化しやすく致死的となるため、絶対に見逃してはならない。末梢血薄層塗抹ギムザ染色は感度が低いため、1回で原虫が見えなくても除外はできないことに留意すべきである。8~12時間空けて(あるいは3日連続で)3回繰り返して確認する必要がある。
デング熱も最近報告があるが、東南アジアと比べると稀である。ケニアでは2011年にデング熱の流行の報告があった。腸チフス・パラチフスは特に南アジアで多いが、発熱以外の症状に乏しいことが多く、鑑別が必要である。リケッチア症ではダニの刺し口が明らかでないこともある。本症例は水様性下痢が認められ、改善傾向ではあるが、感染性腸炎の可能性はある。食事歴については、旅行中に加えて帰国後の内容にも注意して聴取することが肝要である。上気道症状を伴っている場合は、日本での流行時期でなくても、熱帯地域では通年性の流行があるため、インフルエンザも念頭に置く。2012年初頭にケニアのマサイマラ地区でアフリカトリパノソーマ症の報告があったが、本症例では当該地区へは訪れておらず、ツェツェバエと思われる虫に刺されたという病歴も聴取できなかった。
渡航後の発熱では、輸入感染症以外にも一般的な感染症の鑑別を、もちろん忘れてはならない。
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Q.診断に必要な検査を挙げてください。
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【References】
1)Spira AM:Assessment of travellers who return home ill.Lancet.2003 Apr 26;361(9367):1459-69.
2)CDC:Travelers’ Health
http://www.cdc.gov/travel/
3)厚生労働省検疫所ウェブサイト
http://www.forth.go.jp/index.html
4)Health Protection Scotland:fitfortravel
http://www.fitfortravel.nhs.uk
(つづく)