頸部痛、関節痛、歩行困難を主訴に受診した80歳代女性(2/3)
(今号は3週連続で配信しています。1回目)
前回の症例をまとめると、急性に発症する少関節炎で受診した80歳代女性である。
ところで、担当医はKANSEN Journalの愛読者であり、No.11「発熱+関節炎へのアプローチ」[1]を覚えていた。それによると、急性の少関節炎の鑑別疾患は、播種性淋菌感染症、反応性関節炎、細菌性心内膜炎、リウマチ性疾患(成人スティル病、炎症性腸疾患関連関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎)、腫瘍随伴症候群、血清病(serum sickness)、サルコイドーシスなどとなっていた。
本症例ではまず、結晶性関節炎(痛風、偽痛風)、感染性心内膜炎、反応性関節炎、リウマチ性疾患を鑑別に挙げ、関節液穿刺を行ない、血液培養を採取する方針とした。右膝関節より、やや混濁した黄色の関節液が15mL程度引け、これを検査に提出した。
といいつつ担当医は、急性発症で発熱もあり、前医からは「細菌感染症が疑われる」と言われており、やはり化膿性関節炎の可能性が心配になっていた。そこで、KANSEN Journalで紹介されていた、2007年のJAMAのThe Rational Clinical Examination[2]を読んでみた。
この文献によると、外来を受診する関節炎患者における化膿性関節炎のprevalenceは8~27%とのことで、この患者の事前確率をおおよそ15%と考えた。この患者のリスクファクターは年齢(>80 歳)で、その陽性尤度比(LR+)は3.4 であったため、事後確率は37.5%となった。
そのうちに、検査室から関節液の検査結果が返ってきた。細胞数は36600(好中球98%)ということであった。先のJAMAの文献によると、関節液中の細胞数が25000より多い場合、LR+は2.9で、好中球が90%以上の場合、LR+は3.4だという(表1)[2]。事前確率を37.5%として考えると、化膿性関節炎の可能性はずいぶん高そうに思えた。
関節液 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 |
白血球数>100000/μL | 28.0(12.0~66.0) | 0.71(0.64~0.79) |
白血球数>50000 /μL | 7.7(5.7~11.0) | 0.42(0.34~0.51) |
白血球数>25000 /μL | 2.9(2.5~3.4) | 0.31(0.23~0.43) |
多核細胞数≧90% | 3.4(2.8~4.2) | 0.34(0.25~0.47) |
| 正 常 | 非炎症性 | 炎症性 | 化膿性 |
外 観 | 清澄・無色 | 清澄・黄色 | 混濁・黄色 | 黄色・黄緑色 |
粘稠度 | 高い | 高い | 低い | 低い |
白血球数 | <200 | <2000 | 2000~75000 | 75000< |
多核球 | <25% | <25% | 50%< | 75%< |
担当医は先にも述べたようにKANSEN Journalの愛読者であり、No.35「命拾いしました」のCase C[4]を覚えていて、もしや似たような病態ではないかと頸部のMRIを撮影していた。その読影結果は、Crowned-dens症候群(CPPDが環椎横靭帯に沈着して石灰化したもの)として矛盾しない所見であった。
以上を総合して、Crowned-dens症候群を伴った偽痛風として矛盾しない経過であると考え、偽痛風との診断の下、入院としたうえでNSAIDSを開始した。
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こうした対処で問題ないでしょうか?
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【References】
1)萩野 昇:ミニレビュー1/3 発熱+関節炎へのアプローチ,KANSEN Journal No.11,2009.
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20090708J-11-1.htm
(アクセス日2012 年11 月6 日)
2)Margaretten ME,Kohlwes J,Moore D,et al:Does this adult patient have septic arthritis? JAMA.2007 Apr 4;297(13):1478-88.
3)上野征夫:リウマチ病診療ビジュアルテキスト,第2 版,医学書院,2008.
4)具 芳明:Case Study3/3 「命拾いしました」,KANSEN Journal No.35,2012.
http://www.theidaten.jp/journal_cont/20120718J-35-3.htm
(アクセス日2012 年11 月6 日)
(つづく)