No. 402013. 03. 07
成人 > ケーススタディ

頸部痛、関節痛、歩行困難を主訴に受診した80歳代女性(1/3)

東海大学医学部総合内科

上田 晃弘

(今号は3週連続で配信します。)

現病歴

受診1 週間前:自宅で草刈りをしていたところ、右手背にバラのとげが刺さったことを自覚したが、そのまま作業を続けていた。その後、手袋を取ったところ、少し出血が見られていたという。

受診5 日前:全身に筋肉痛を認めた。受診4 日前、右手が腫れて字が書けないほどになった。受診2 日前、強い頸部痛が出現し、動かすことができないほどであった。また、歩行ができなくなったという。

受診前日:右手関節と右足関節が腫脹して歩行できなくなったため、近医を受診。頸部、手関節、足関節にX線写真上では異常がないと言われ、帰宅。

受診当日:別の近医を受診して採血したところ、細菌感染が疑われるとのことで、当院に紹介受診となった。

ROS(review of systems):頭痛なし。頸部痛は頸を動かせないほどひどい。咳や痰なし。咽頭痛なし。開口障害なし。構音障害なし。嚥下障害なし。腹痛なし。排尿時痛なし。下痢なし。右手首、左肩、右膝、右足首に疼痛あり。

  • 既往歴:脂質異常症のため、近医でアトルバスタチン内服加療中。
  • 嗜好歴:喫煙なし、飲酒なし。
  • アレルギー歴:なし。
  • 家族歴:母が心筋梗塞。
  • 職業歴:農業。

現 症

 身長150cm、体重49kg、体温39.1℃、血圧140/80mmHg、脈拍88回/分、呼吸数18/分、意識清明。関節の痛みと頸部痛のためじっとしているが、全身状態は落ち着いている。

  • 頭 部:結膜に貧血なし、黄疸なし。咽頭発赤なし。開口は4横指可能。
  • 頸 部:頚部痛は強く、他動的にも前後屈できず。リンパ節腫大なし。
  • 腋 窩:リンパ節腫大なし。
  • 胸 部:呼吸音清、ラ音を聴取せず。心音整、心雑音聴取せず。
  • 腹 部:平坦、軟、圧痛なし。腸蠕動音正常
  • 背 部:CVA(肋骨脊椎角)叩打痛なし。脊椎に叩打痛なし。
  • 鼠径部:リンパ節腫大なし。
  • 皮 膚:皮疹なし。
  • 四 肢:右手関節・左肩関節・右足関節に圧痛・発赤・熱感を伴う腫脹あり。右膝関節は圧痛と熱感を伴う腫脹あり、膝蓋跳動を認める。手指先端、足指先端に皮疹なし。

血液検査所見

  • 血 算:WBC 15200/μL(Seg 93.0%、Stab 3.0%、Lymph 1.5%、Mono 2.5%、Eosino 0%、Baso 0%、Atypic 0%)、RBC 3.4×106/μL、Hb 10.3g/dL、Ht 30.4%、MCV 89.4fl、MCH 30.3pg、MCHC 33.9%、Plt 31.9×104/μL、ESR 73mm/時
  • 生化学:Prot 6.5g/dL、Alb 2.1g/dL、CK 36U/L、GOT 57U/L、GPT 63U/L、LDH 316U/L、ALP 645U/L、γ-GTP 75U/L、Amy 83U/L、Cr 0.52mg/dL、UA 1.7mg/dL、Glu 116 mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 103mEq/L、Ca 9.0mg/dL、T-bil 0.4mg/dL、CRP 29.25mg/dL

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

  この時点で何を考え、どのように評価を進めますか?

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

(つづく)

記事一覧
最新記事
手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に
成人 > ケーススタディ
No. 972022. 08. 10
  • 東京大学医学部附属病院 感染症内科
  • 脇本 優司、岡本 耕
    手感染症――化膿性腱鞘炎を中心に

    はじめに 全身の中でも手指が最も外傷を負いやすいこともあり、手感染症(hand infection)は頻度の高い皮膚軟部組織感染症の一つである。手感染症は侵される解剖学的部位や病原体などによって分類されるが、中でも化膿性腱鞘炎は外科的緊急疾患であり、早期の治療介入が手指の機能予後…続きを読む

    臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例
    成人 > ケーススタディ
    No. 862021. 01. 29
  • 井手 聡1、2)、森岡慎一郎1、2)、松永直久3)、石垣しのぶ4)、厚川喜子4)、安藤尚克1)、野本英俊1、2)、中本貴人1)、山元 佳1)、氏家無限1)、忽那賢志1)、早川佳代子1)、大曲貴夫1、2)
  • 1)国立国際医療研究センター国際感染症センター
  • 2)東北大学大学院医学系研究科新興・再興感染症学講座
  • 3)帝京大学医学部附属病院感染制御部
  • 4)帝京大学医学部附属病院中央検査部
  • 臨床的にジフテリア症との鑑別に難渋したジフテリア菌保菌の一例

    キーワード:diphtheria、bradycardia、antitoxin 序 文 ジフテリア症は、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)の感染によって生じる上気道粘膜疾患である。菌から産生された毒素により昏睡や心筋炎などの全身症状が起こると死亡…続きを読む

    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)
    成人 > ケーススタディ
    No. 662018. 12. 05
  • 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科
  • 小林 謙一郎、久保 健児、吉宮 伸洋
    1週間以上持続する発熱・頭痛・倦怠感と血球減少のため紹介された78歳女性<br>(3/3)

    本号は3分割してお届けします。 第1号 第2号 *本症例は、実際の症例に基づく架空のものです。 前回のまとめ 和歌山県中紀地方に居住している78歳女性。10日以上続く発熱、倦怠感があった。血球減少が進行したため、血液疾患やウイルス感染症を疑って骨髄検査や血清抗体検査を実施し、重症…続きを読む