発熱、嘔気、倦怠感、頭痛のため受診した50歳代男性(3/3)
血液培養2セットとレジオネラ尿中抗原、肺炎球菌抗原が提出されたところ、同日中にレジオネラ尿中抗原が陽性となった。また後日、気道検体からもレジオネラ属が培養陽性となった。
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最終診断:レジオネラ肺炎(および肺外症状)
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この結果を受けて、レボフロキサシンが投与開始された。また、肺炎球菌肺炎などの合併も考慮して、初期にはセフトリアキソンが併用された。治療に対する反応は良好で、患者は入院から8日目に抗菌薬を内服のレボフロキサシンに変更して退院した。治療は合計14日間行なわれた。
解 説
今回は、発症7日目に主に肺外症状を訴えて受診したレジオネラ肺炎の症例を提示した。いわゆる非定型肺炎においては多彩な肺外症状が知られている(表)。非定型肺炎の病原体は全身の感染症を起こし、その一部として肺にも症状が現れると説明する専門家もいる[1]。
Legionella | ・意識障害 ・頭痛 ・腹痛 ・下痢 ・相対的徐脈 ・低ナトリウム血症 ・一過性のトランスアミナーゼの上昇 |
Mycoplasma pneumoniae | ・咽頭炎 ・下痢 ・皮疹 |
Chlamydophila pneumoniae | ・咽頭炎 ・筋肉痛 |
(Cunha BA: The atypical pneumonias: clinical diagnosis and importance. Clin Microbiol Infect. 2006 May; 12(Suppl3): 12-24.より代表的なものを抜粋して引用)
その中でも、特にレジオネラ肺炎は重篤な呼吸不全を呈する肺炎として知られているが、肺外症状がしばしば肺炎に先行することもよく知られている。今回の症例にあった頭痛、嘔気(消化器症状)、トランスアミナーゼの上昇、顕微鏡的血尿、低ナトリウム血症は、いずれもレジオネラ肺炎の肺外症状として見られることが知られている[1]。本症例では、いずれもレジオネラ症に対する治療とともに速やかに消失した。相対的徐脈が見られることも有名だが、今回の症例では認められなかった。
肺炎の存在を認知して、尿中抗原が陽性になれば、レジオネラ症の診断に迷うことはないが、肺外症状のみの時期にはX線撮影の所見も乏しく、肺炎の存在の認知が遅れれば診断の遅れにつながる。フォーカスのはっきりしない患者の発熱へのアプローチにはreview of system が重要であると気づかされる症例である。
レジオネラは、通常の喀痰培養に使われる培地では培養不能なため、疑って培養を意図する場合には、検査室に相談して適切な培地を用いなければ検出されない。培養の感度が低いため、診断は尿中抗原、血清抗体に頼らざるを得ないが、血清抗体では急性期の診断ができず、尿中抗原検査で検出可能なのはレジオネラ属の中でもLegionella pneumoniphila 血清型1のみであるため、感度に限界があることにも注意が必要である。
レジオネラ属は、集合住宅の冷却塔や24時間循環風呂などの水のあるところで増殖する。日本では温泉や健康ランドなどでの感染が話題になるため、レジオネラ肺炎を語るキーワードとして有名である。今回の症例では、共同浴場など水への曝露歴は明らかではなかった。日本では、レジオネラ症に罹患したトラック運転手のカーエアコンからレジオネラ菌が検出されたという報告が存在し、奇しくも今回の症例も職業がトラック運転手であった[2]。これらの報告によれば、道路の水たまりからもレジオネラ菌は検出されるとのことで、必ずしもカーエアコンの使用がリスクになると証明されたわけではないが、われわれの生活の中にレジオネラへの曝露の機会が多く潜んでいることに警鐘を鳴らしている。海外では、ウィンドウウォッシャー液の代わりに水を用いるとレジオネラ症のリスクが上がるとする報告があり、ウィンドウウォッシャー液をケチって水で代用する人がいるという事実とともに、大変に身近なところで曝露が生じうることに驚かされる[3]。
レジオネラは検査の感度が低く、曝露歴が重要視されがちだが、これまでに知られたようなリスクへの曝露歴がなくてもレジオラ症の発症があり得ることを示唆する大変興味深い症例であった。
【References】
1)Cunha BA: The atypical pneumonias: clinical diagnosis and importance. Clin Microbiol Infect. 2006 May; 12(Suppl3): 12-24.
2)坂本龍太・他: レジオネラ症の隠れた感染経路、自動車の運転や雨天は危険因子か?, 病原微生物検出情報月報(IASR), 2010, Vol.31: 69-72.
http://idsc.nih.go.jp/iasr/29/346/dj3463.html
3)Wallensten A, et al: Windscreen wiper fluid without added screenwash in motor vehicles: a newly identified risk factor for Legionnaires’ disease. Eur J Epidemiol. 2010 Sep; 25(9): 661-5.
(了)