No. 122009. 09. 16
成人 > ケーススタディ

第17回米国式感染症科ケースカンファレンス(4/4)

順天堂大学感染制御科学/総合診療科

上原 由紀

(4分割配信の4回目です。 1回目 2回目 3回目
前号に引き続き、ケースカンファレンスの内容をレポートします。


Case3 両肩が痛くて動けない患者さん

(国保旭中央病院内科 清水さやか先生/岩渕千太郎先生)

 肩痛は高齢の患者さんによく認められる症状だが、意外な展開となった。

 症例は90歳代の男性。入院3日前の夕方から右肩痛が出現した。入院2日前に近医整形外科を受診したところ湿布を処方され、当院整形外科紹介予定となる。同日からは左肩痛も出現した。入院前日は歩行困難で布団から出られなかった。入院当日は予定どおり当院整形外科を受診したところ、両肩関節腫脹とともに右下肢筋力低下も認めたため、脳梗塞を否定できず、内科で診ることになった。なお、内科診察時に低血圧と意識消失を認めたが、臥位と補液で改善したとのこと。

 ここまでの病歴を聴き、参加者から質問が多数挙げられた。

  • 歯科治療、針治療、外傷歴は? →いずれもなし。
  • 痛みの性状は? 動かすと痛い? →持続痛、自発痛。痛みのため肩が動かせず。また痛いので動きたくないとの訴えあり。
  • 筋力低下はあるか? →痛みのため評価困難。変形性関節症はありそう。
  • 皮膚に異常は? →皮膚は萎縮しており、背中に一部びらんあり。
  • 体重減少、食欲減少は? →なし。

 ここで診察所見が紹介された。バイタルサインは体温 36.1℃、収縮期血圧 80mmHg、脈拍 84bpm、呼吸数 24/min。身体診察の異常所見としては、全身の皮膚が乾燥しており背部に小びらんが散在、四肢では両肩関節の腫脹(右>左)・熱感・圧痛、また右股関節前面の圧痛が認められた。手指、膝関節には変形性関節症性変化も認められた。なお皮膚のびらんについては、近医皮膚科において原因不詳のまま2年間ステロイド外用薬が処方されているとのことであった。

 さらに鑑別診断も多数挙げられた。

 成人の多発関節炎であり、感染症としては、Staphylococcus 属、HBV、HCV、parvovirus B16、Yersinia 属やSalmonella 属(消化器症状や右下腹部の異常所見が手がかりになる)、Chlamydia 属、Neisseria 属、さらにStreptococcus 属(Group G streptococcusやStreptococcus anginosus group、Streptococcus pneumoniae)などが想定される起因菌として挙げられた。感染症以外の原因としては痛風を考慮する必要があるだろうということになった。

 ここで微生物検査の結果が披露された。肩関節穿刺液のGram 染色ではGram陽性連鎖球菌が認められ、穿刺液培養と血液培養の両方でStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis となった。心内膜炎や脳膿瘍が否定できなかったため、ペニシリンG 2400万U+ゲンタマイシン180mg/日で6週間治療し退院となった。

 しかし、退院39日後に再度右肩関節の腫脹が出現した。

 再度行った肩関節穿刺液のGram染色では、Gram陽性ブドウ球菌と、抗酸菌染色において抗酸菌を認めた。ブドウ球菌は培養の結果Staphylococcus aureus(MSSA)であり、ドレナージの後セファゾリンで治療を行った。抗酸菌培養同定の結果はまだ出ておらず、治療も行っていないが、少なくとも肺結核は認めないようだった。

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最終診断
Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis による化膿性肩関節炎
Staphylococcus aureus (MSSA)による化膿性肩関節炎

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侵入経路や抗酸菌をどう判断するか

 最終診断は上記であったが、これらの起因菌の侵入経路や抗酸菌をどう判断するかについて討論が行われた。

 まず、Streptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis については消化管からの侵入が考えられる。しかしPETは陰性で明らかな炎症箇所を認めず、また上下部消化管内視鏡検査は年齢や検査時の体位の問題から施行できないとのことであった。Streptococcus の感染症がこれだけ同時に複数の部位に起こるのは否典型的ではないかという意見もあったが、過去の報告ではゼロではないそうである。

 2回目のStaphylococcus aureus については、皮膚のびらんが多いことや、関節穿刺も複数回行われていることなどが要因として挙げられた。

 抗酸菌染色は1回だけ陽性となっており、感染症を起こしているとは考えずに治療は行わなかったそうである。迅速発育型抗酸菌(Mycobacterium fortuinum, chelonae, abscessus など)も培養されていない。

化膿性関節炎に関するレビュー

 この後、化膿性関節炎に関するレビューがあった。

 抗酸菌による関節炎の場合は、ほとんどがMycobacterium tuberculosis であるそうだ。ステロイドの影響については、外用薬でもStrongestのものならば2g/日以上かつ2週間以上で副腎不全をきたすとのことで、本症例でも無視できない可能性があるとのことだった。特に、抗酸菌を含めた細胞内寄生菌に注意が必要とのこと。今回検鏡で認められた抗酸菌については、ブドウ球菌の治療のみで改善してしまったことから、採取時や検査室内での検体や標本の汚染の可能性についても考えなければならない。ただ、非結核性抗酸菌であっても手術部位や人工血管感染の報告はあるとのことであった。

(了)

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